Breaker's Break 03
何も知らぬことは最も幸福である。
この言葉が虚構だとはとても思えない。
知らなかったのならば普通で幸せな生活を送れただろうから。
000大学。
国内に存在するたった一つの大学。
日々、選ばれた人間だけが様々な研究を行っている―――
「……」
巨大な門を冷めた目で見上げる女性を通行人が不思議そうに見、しかし通り過ぎていく。
女性の目つきが一瞬剣呑なものになり、
「……」
すぐにもとの無感情な目に戻った。
「やあやあやあっ!よく来たねえ、まあとりあえず座ってえ。生憎紅茶しかなくてね、まあでも高級なやつだから」
「……お世話になります」
研究室04、と銘打たれた部屋には女性が二人。
胡散臭そうな笑みを浮かべ、カップを片手にいそいそと準備している
倉上 静音
。
無表情で、しかし興味深そうに研究室を見回す
志野 朔夜
。
「妹ちゃん、砂糖とミルクはいるかなあ?」
「……要りません」
「そうかそうか。ブラックと言うわけだね。ブラックと言うと皆珈琲を連想するけれど、ティーがつくと紅茶なんだよ」
「……そうですか」
「なんだよう、冷たいねえ。表情とキャラがちぐはぐだから面白いんじゃないか。ニコニコ笑ってて静かだったら面白いだろう?」
「……そうですね」
かちゃり、と微かな音をたててカップが置かれ、静音はそれを静かに口へ運ぶ。
暫くしてから朔夜も紅茶を飲んだ。
朔夜がカップを置いたのを見た瞬間、静音が話し出す。
「で、何だっけ?というか何、大学の破壊ってどんな規模?滅茶苦茶興味あるんだけど。爆薬とか使う?事故装ったりとかさ」
「……さあ」
「何だよつれないねえ、いいじゃん。どうせボロッボロにするつもりなんだろうけどね。依頼者誰?」
「……守秘義務があります」
「いいじゃんいいじゃん。あ、ひょっとして
輝薙
の少年かな?あの子の姉ちゃんとオトモダチなんだけどね、良い絵を描くんだ」
「……あの、」
「一度あたしも描いてもらおうかな。つうか輝薙の家は文武両道なんだよねえ。知ってるかな、合気道やってんだよ一家で」
「……」
「あたしもガキの頃から武道に興味あったんだけどさあ、性に合わなくってねえ。うだうだ面倒だったからやめちゃったし…」
「いい加減にしてください、わざとやっているのが良く分かります」
「えー」
静音は口を尖らせ、しかしくつくつと陰鬱に笑い声を立てた。
先ほどまで見せていた表情が全て消え、厭らしく笑う。
「いいね。滅茶苦茶楽しそうだ。楽しそう。ほんっと楽しそうだねえ…あっはっはっはっはっはっは」
「……今のところは、私が貴女の助手として潜入し、ある程度の情報を手に入れたら兄と連携するつもりでいます」
「どうでもいいよ。楽しみにしてる。ただまあ、助手と銘打ってるくらいだもん、手伝いはしてもらうからね」
「……はい」
「うんうん。…くくっ。お偉いさん方のおっかしい顔が思い浮かぶねえ…」
一通り笑った後、静音は立ち上がり、
「よし。そいじゃあ始めましょうかね…午後から講義があってさ。その間は自由にしてて構わないよ」
「……分かりました」
「で?他に何かあるかなあ?あれば用意してあげるよ。上に顔が利くから」
「……………、いえ、大丈夫です」
「うん、それじゃあちょっと用事があるから。薬品以外だったら何しててもいいよん。あ、でもデータ壊しちゃ困るわ」
そのまま静音が立ち去り、朔夜はだだっ広い研究室に一人取り残され。
少し迷ってから、棚に積まれていたファイルを開き、読み始める。
部屋にはぱらりぱらりとページを捲る音だけが響き、
「……!」
朔夜の手が、あるページでとまった。
「……輝薙、
流
。家族構成、父、母、姉。姉は北地区に在住、画家。姉、絶縁状態。父は輝薙カンパニーの社長…」
アナクロな手段。
しかし、パソコンからのアクセスは出来ない。
其の分まだマシということだろう、確かにわざわざここに来ないと詳しいデータは見ることができない、と朔夜は一人考える。
「……母、
限原
家当主の一人娘。見合い結婚。…こんなのは、どうでもいい…」
食い入るようにデータを見つめ、記録するかのように一つ一つ確認しながら呟き、再びデータを見つめる。
「おやおや。あっはっはっはっは、見つかっちゃった?…なんてね。取り寄せといたんだよね。感謝してくれるよねえ?」
「……いたんですか?」
「はい。こりゃあ多分持ってない資料だと思ってね。水道管の詳しい図。建物自体を壊したいんだったら便利だと思うよ?」
朔夜の質問には答えず、静音は丸められた図面を投げ渡した。
落としかけながらもどうにかキャッチし、朔夜は丸められたままのそれを食い入るように見つめ、
「……ありがとうございます」
ぽつりと言った。
「はいはい。何だったらそのままお兄ちゃんに送っとくけどどうするよう?」
「………、いいです。頭脳労働は私の仕事なので」
「ふうん。ふうんふうんふうんふうんふうん…まあいいか。妹ちゃん、あのお兄ちゃんはあのお兄ちゃんでそれなりの子だよ」
「……知っています」
「そ。そいじゃあ今度こそ私は退散するよ。講義の準備しなきゃ。手伝い要らないから、ここにいてね」
ぱたん、と。
扉が閉じられ、再び朔夜が取り残された。
困ったように手元のファイルを見、
「……貰っていいの、か」
呟き、さらに迷って、
「…………………」
ファイルを鞄の中に無理矢理突っ込んだ。
整理整頓が好きな性質ではないらしい。
とりあえず、と彼女は思う。
潜入は出来た。
調査も出来る。
下調べを入念に。
別行動をしている兄のことを少しだけ考えてから、朔夜は再び研究室の中をあさり始めた。
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Postscript
何だかよく分からなくなってきた。
人名に関しては、なるべく早いうちにマウスオーバーでルビとかの対策をするつもりでいる。
ので、実装までしばしお待ちを。
…これ、見てる人っていないよなあ…
早いところサーチエンジンに登録して、…まあ、そんな感じにしたい。
自分の作品がどう言われようと構わない、格好良い人も世の中にはいますが。
けれど、私はチキンです。怒られると腹の中で真っ黒になりつつ萎縮する最悪な人です。
感想、誤字脱字等御座いましたら
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糧になります。